精神科OTで行うアロマセラピー

 加藤和貴(草加すずのきクリニック) 細沼彩和美(久喜すずのき病院)

 アロマセラピーとはギリシア語のaroma(香辛料・香り)と英語のtherapy(療法)を合わせた言葉で「芳香療法」と訳されています 1)。 補完・代替医療(Complementary and Alternative Medicine :CAM)のひとつであり、西洋医学だけでは不十分な面をカバーする一助になります。しかしあくまで補助的な使用であり、その限界や注意点を理解しておく必要があります。

アロマセラピーの行なわれている分野  

家庭 趣味、健康維持、民間療法
エステティック 美容、リラックス効果
医療 補完・代替医療、看護・医療類似行為(鍼灸・マッサージ等)の補助

  作業療法プログラムとしては、匂いによる雰囲気作りを主な目的として使用しているところが多いようです。しかし、アロマセラピーは精油が持つ様々な特性も利用する事が出来、作業療法プログラムとしても、より効果的に行える可能性があります。

 回復段階別の主な効果

亜急性期
  ◇安全で安心できる場を得る。
  ◇活動性の低下した方や落ち着きの無い方でも受動的に「快・やすらぎ」の感覚を得る。
  ◇心と体を鎮静し緊張をほぐす体験をする。
  ◇世間のいわゆる「セラピー」「癒し」のイメージに近く、違和感なくOTへ参加できる。
回復期前期
  ◇ゆっくりと確認しながらマッサージすることで自己の身体を再認識する。
  ◇共有体験や、ペアマッサージによるスキンシップにより、受容体験や集団所属感を得る。
回復期後期
  ◇自己の心身への関心を高めて「健康」「自己管理」「整容」などへ意識をむける
  ◇ペアマッサージで自分が「される側」の時に「どうすれば心地よいのか」を体験し、交代して行う際に相手の身になって考える機会となる。
維持期
  ◇趣味・余暇活動・楽しみとなる。
  ◇日常生活における”余裕ある時間”の確保ができる。
  ◇体調維持・自己管理の一手段となる。
  ◇アロマクラフト(エアースプレー、石けん等)を作り達成感を得たり、作品を他者にプレゼントし認められる経験を得る。

当院でのアロマセラピープログラム紹介

当院概要:1988年12月設立 : 精神科322床 :平均外来者数250/日 :平均在院日数80日 :年間入院退院者1300名
疾患:統合失調症・気分障害・神経症・心身症・薬物依存症、その他老年期精神疾患 等
精神科OT部門(2004年3月)OTR3名OTA3名 平均参加者数150名


準備品

品  名
費  用  等
アロマオイル 10ml:ラベンダー・アングスティフォリア 1500円 ティートゥリー 1440円 等
キャリアオイル(アロマオイルを薄めるためのもの) 1000ml:スィートアーモンド 4800円
ビーカ、スポイト

ビーカ 50ml:410円
スポイト 10ml:140円

バスタオル  
おしぼり  
芳香器  
CD、CDプレーヤー  

 <毎回の材料費>
 参加者25人前後・足部マッサージを想定
アロマオイル  
 ラベンダー・アングスティフォリア  1500(定価2500)円×0.15/10ml=22.5円 
 オレンジスィート     900(定価1500)円×0.10/10ml=9.0円 
 ティートゥリー     1440(定価2400)円×0.15/10ml=21.6円
キャリアオイル 
 スィートアーモンド   4800(定価9800)円×40/1000ml=192.0円 
              (顔部:20ml手部:30ml足部40ml)   
                                合計   245.1円(税抜き)
     
初期費用は多少かさむものの、毎回の使用量が少ない為、決して高価ではないと言えます。 


プログラムの流れ
(スタッフ:OTR+OTA=3名:講師1名)
 1.挨拶 
 2.
オリエンテーション…プログラムの目的(今日のアロマ紹介等)と方法を説明 講師紹介
 3. リラクセーションストレッチ
 4. アロママッサージ(顔/手/足)、足浴を併せて行うこともあります。
   
…スタッフが介助します。または同性の参加者同士で行ないます。
 5. 余韻を楽しむ時間 カーペットにごろ寝しながらイメージ導入します。
  
(参加者は背臥位閉眼。 BGMに併せスタッフが「今、心地よい日差しの中、海辺に寝そべっています…」等伝えます)
 6. 質問タイム
 7. 挨拶 終了
 

☆マッサージ 一定の講習を受けた講師と共に行っています。しかし参加者同士によるペアマッサージもあります。オイルを用いゆっくりさするだけでも心地よさを得ることができます。
☆BGM 開始時は穏やかで温かい印象を与える曲
    
リラクセーションではケーナ演奏曲などゆったりした曲
    アロママッサージでは、優雅なクラッシック  等々使い分けています。
照明 雰囲気に合わせ調節します。

 

 

ある日のアロマプログラム

ストレッチをしています。
進行役の作業療法士は
声のトーンや大きさにも配慮します。
照明も暗めにし、ゆったりしたBGMをかけ
心地よい時間が流れていきます。

のんびりくつろぎながらの足浴です。

足が汚れがちな患者さんも多く好評です。

 

アロマオイルを使いマッサージをしています。
この時の気持ちよさが、その後の自己の身体への関心や
他者へマッサージする際の配慮に繋がっていきます。

 

ペアになってマッサージをしています。
「こんな感じでどう?」「痛くないですか?」
「気持ちいい〜」「なんか申し訳ないわぁ」
「極楽極楽♪」様々な会話が聞こえてきます。

 

参考) フェース・スケール(Lorish,C,D.and Maisiaku,R)による効果測定  参加者20名、男9女11名、18〜71歳平均42.3歳
   統合失調症10名、その他気分障害・アルコール依存症・PTSDなど 14/20回収 (有意差ありt-検定α=0.05)

     

 

参加者の様子・感想

部屋に入った瞬間から香り・音楽に包まれるためか、開始時から多くの参加者の表情が緩み、心地よい感覚を得ることが出来ているようです。「何かを作る」プログラムにある“急いでしまう”という場面もほとんど見られません。他者と相互にマッサージ(アロマオイルを用いての軽擦)をし、終了後は「ありがとう」「退院したら家族にもやってあげたい」といった声が聞こえます。また材料の貸し借りや他者への気遣いも比較的多く見られます。

アンケートでは「すごく気持ちいい」「次回が楽しみ」「アロマセラピーは医者いらず」「アロマの日はよく眠れる」「退院後も続けたい」と好評でした。「こんな香りでやってみたい」との希望は出ますが、今のところ特に否定的な意見は出てきていません。

 

プログラムを行う際に注意した方が良い点

品質 肌に触れるため信頼できる業者から精油を購入する必要があります。
    例:精油の抽出方法は水蒸気蒸留法が一般的ですが、化学溶剤を使って抽出する業者もいます。
     
これは化学溶剤を完全に取り除く事が難しいため、使用するべきではありません。

効果 正しい効果を把握しましょう。
    例: ラベンダーは一般的に「落ち着く・安らぐ香り」と言われていますが、すべての品種がそういうわけではありません。 ラベンダー・アングスティフォリアは、神経バランス回復作用をもつ酢酸リナリルといった成分を40%〜50%含有していますが、ラベンダー・ストエカスには含まれていません。 ラベンダー・ストエカスは古くから薬用や化粧用として利用されてきましたが、神経刺激性の強いケトン類を70%近く含む為、乳幼児・妊産婦・授乳中の女性・てんかん患者には使用できないとされ、注意が必要です。またラベンダー・スーパーやラベンダー・レイドバンなど”ラバンジン”と呼ばれる品種は、雑貨屋で「ラベンダー」としてよく売られていますが、鎮静作用のある成分だけでなく、延髄の呼吸中枢刺激作用や血管運動興奮作用のあるケトン類の一種「カンファー」という成分も含まれています。4)

濃度 目安として以下の濃度が挙げられています。 1)

   濃度1%以下 小児、高齢者、妊婦、リラクセーション目的

   1〜5%   一般成人の精神的・身体的症状に使用する場合

   5%以上   身体的な症状が強い場合、ポイント的な使用をする場合

  精神科OTプログラムの範囲としては安全性の高い1%以下の濃度が望ましいのではないかと考えます。

パッチテスト 品質に気をつけたとしても、アレルギー反応を起こすことがあります。そのためマッサージを行う前にはパッチテストを行う必要があります。当院では簡易パッチテストとして肘内側にその日のオイルを米粒大塗り、少なくとも30分程度様子を見ています。 また多くの柑橘系オイルに含まれるフロクマリン類という成分は光感作を起こす可能性があるため、塗布した肌を直射日光に当てないようにするなど注意が必要です。4)

侵襲性 不必要な侵襲性を避けるために、体幹へのマッサージは行わず手部・足部へのマッサージが適当ではないかと考えます。また1対1のマッサージは心理的距離が近づきすぎることもあり、集団活動として適度な距離感を保ちながら行うことが通常は良いでしょう。のべ2000人以上に行っていますが、今のところその方法で不穏になった方はいません。

その他 日本アロマセラピー学会(下記)でも禁忌事項(手術直後、急性疾患、物理療法を受けた同日 等)を定めているので、書籍等で参照してみてください。

 

注 意 点 ま と め
アロマオイルはその成分を吸入したり皮膚から吸収するわけですから、品質や危険性に充分気をつけなければなりません。また「落ち着く効果がある」と参加者に言っておきながら、実際は逆の効果があるオイルを使用することも避けなければなりません。そのためにはきちんとした知識を得た上で行う必要があります。

 

精神科OTプログラムとしてのアロマセラピーを振り返って

アロマプログラムにはその特性を活かした多くのメリットがあります。OTプログラムでは疎かにされがちな嗅覚へ、信頼できるアロマオイルを用い刺激を与えることが可能です。嗅覚は大脳辺縁系に直に働くため、大脳新皮質機能が低下している方でも比較的「心地よい快刺激」を得やすいようです。また触れることにより自己の体を意識し、そこから「自発的な健康管理」や「他者への労り」へ繋がっていくことも多く、入院初期から退院後まで幅の広く活用できます。
 作業療法としてアロマプログラムを施行する際は、安全性の高い1%以下の濃度で精油を用いることが適当かつ限界ではないかと考えます。それ以上行う場合、アロマセラピーを理解している医師と連携しながら行うのが良いでしょう。どちらにしても「なんとなく雰囲気で」プログラムを行うことは危険であり、誠実さに欠けます。正しい知識を持つためにも、医療従事者を対象とした学会へ入会したり、研修を受けるなりして学んでいくことが大切だと思います。 

紹 介
 
日本アロマセラピー学会 http://homepage3.nifty.com/aroma-gakkai/

活動指針
 
日本アロマセラピー学会は、アロマセラピーを医療に正しく応用する為に臨床医を中心に組織された医療従事者の全国的な研究団体です。 医療分野に正しいアロマセラピーを普及させることを目的に有志で1997年7月に発足された「メディカルアロマセラピー連絡会」が昇格し同年11月正式に「日本アロマセラピー学会」として活動を開始。1998年2月には大阪の千里ライフサイエンスセンターで第1回総会を開催。参加者は全国から510名もあり医療分野でのアロマセラピーの関心の高さが伺えました。 医療分野でのアロマセラピーは、従来から言われている精神世界のアロマセラピーではなく、医学的な根拠に基づいたアロマセラピーである必要があります。しかし、多くの書物が日本でも出版されているにもかかわらず、医学的な見地から納得のいく物はありませんでした。医療分野でアロマセラピーを使うには、代替医療や補助療法として見解を十分理解し、インフォームド・コンセントを十分行い、気持ちいいだけのアロマセラピーではなく、ケアやキュアを目的としたアロマセラピーを実践する必要があります。

 

参考文献

1)川端一永,吉井友季子,田水智子/協力 日本アロマセラピー学会,日本アロマケア学会
:臨床で使うメディカルアロマセラピー,メディカ出版,2000

2)今西二郎 編:医療従事者のための補完・代替医療,金芳堂,2003

3)川端一永:医師が認めたアロマセラピーの効力,河出書房新社,2002

4)ナード・ジャパン ナードアロマテラピー協会 編集:NARDケモタイプ精油事典,2003

5)日本作業療法士協会監修:作業療法学全書第5巻 作業治療学2「精神障害」,協同医書出版,1999